(2023/02/26)久しぶりにサイトをリニューアルしました。 (2023/03/01)村上春樹の新作タイトルが発表されましたね。
BOOKREVIEW

三谷幸喜『三谷幸喜のありふれた生活17』

コロナ禍での「ありふれた生活」

 三谷幸喜は学生時代から、関東の演劇界では有名だったらしい。けれども、小劇場の劇団公演など皆無な名古屋にいた僕は知る由もない。たしかその名を初めて聴いたのは、1989年から放送されていたフジテレビのコメディドラマ『やっぱり猫が好き』からだったと記憶している。織田裕二主演の『振り返れば奴がいる』の脚本を書いたことも知ってはいた。ただ、当時は野島伸司や北川悦吏子などが次々に登場した時代でもあった。なので、僕のなかではあくまで新進の脚本家のひとり、ぐらいの認識だった。

 その証拠に『古畑任三郎』がスタートした時、脚本を書いたのは野島伸司だとばかり思っていた。会社の同僚と「古畑」の話になったときに、その勘違いを披露してしまい、赤っ恥をかいた。そのときの相手の、困ったような、僕を憐れむような顔を今でも鮮明に覚えている。やれやれ。

 そんな昔話はともかくとして、朝日新聞紙上で連載中の三谷幸喜の人気エッセイ「ありふれた生活」も、今年で二十三年になる。回数も千回を超えるらしい。すごいとしかいいようがない。第十七弾目となる最新刊は、二〇一九年二月から二〇二〇年九月までを収録。副題の「未曽有の出来事」そのままに、コロナ禍での「ありふれた生活」が中心となる。劇作家としての苦悩の日々がつづられるのは、一五〇ページを超えたあたりから。

 それでも巻末の「本書収載期間の仕事データ」を見ると、その仕事量に圧倒される。映画製作、新作歌舞伎など複数の舞台の脚本、稽古に加えて、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の脚本も執筆していたことになる。ものすごい。そして本文を読めば、それが「鎌倉殿」にしっかりとつながっていることもよくわかる。「鎌倉殿」で源実朝役を好演した柿澤勇人との出会いなどがその好例。

 そんな中で、悲しい出来事もあった。連載スタート時から挿絵を描いてもらっていた和田誠の逝去である(二〇一九年一〇月)。「先輩、仲間、「育ての親」」と題された回は、見事な追悼文。加えて、コロナ禍で〈家でじっとしている方々に、何か楽しい話題を提供したい〉との思いで書かれた「古畑任三郎」の小説版「一瞬の過ち」も、特別収録されている。主演を務めた田村正和もまた二〇二一年四月に逝去。奇しくもこの小説が、三谷と田村との最期の「共作」となった。