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BOOKREVIEW

斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』

斎藤の言は理想主義に聴こえるかもしれない。けれども、耳を傾ける価値は十分にある。

『人新世の「資本論」』で一躍注目を浴びた斎藤幸平による「資本論」の入門書。難解なマルクスの著作のエッセンスを嚙み砕いて説明し、現代の問題へと敷衍。資本主義の閉塞した時代の淵源にあるものを浮き彫りにする。とくに斎藤はマルクスの新たな全集を編む「MEGA」プロジェクトに参加しているから、これまで焦点を当てられてこなかった膨大な手稿をもとに、新しいマルクスの読み方を心得ている。

 斎藤の考える「資本論」は、かつて大学などで「マル経」と呼ばれていたものとは一線を画す。とくに着目するのが〈『資本論』に編まれなかった晩年の思想〉。そこでマルクスは〈資本主義に代わる新たな社会において大切なのは、「アソシエート」した労働者が、人間と自然との物質代謝を合理的に、つまり、短期的に食い潰してしまうのではなく、長期にわたって持続可能な形で制御する〉ことを模索していたという。

 ただし未完に終わった『資本論』には、具体的な施策については書かれていない。ここからは斎藤を始め、現代に生きる我々がマルクスの思想をどのように具体化していくのかが問われている。〈資本主義の内部で、単に税金を上げて再分配をしたり、労働者の給料を上げたりするだけではダメ〉だからだ。つまり我々は〈資本主義を超えた社会〉を構想していかなければならない。

 そこで斎藤が提唱するのは「アソシエーション(自発的な結社)」の強化だ。これはマルクスが〈来たるべき社会のあり方を語るときに彼が繰り返し使っていた〉キーワードであるらしい。それは〈ソ連のような官僚支配の社会ではなく、人々の自発的な相互扶助や連帯を基礎とした民主的な社会〉を目指すものだという。斎藤の言葉を引く。

〈労働組合、協同組合、労働者政党、どれもみなアソシエーションです。現代でいえば、NGOやNPOも当てはまります。(略)アソシエーションの重要性は、福祉国家で提供されているさまざまなサービスの歴史的な形成過程を見ればわかるでしょう。例えば、失業保険は、労働者自身が給料の一部からみなでプールしていたものです。仕事が欲しくて、安い給料で働く人が出てきてしまえば労働運動の足並みが乱れてしまう。そのため、一定の水準以下では働かないように、失業してしまった労働者たちの生活を、自分たちで支える仕組みができたわけです。〉

 資本主義は〈商品や貨幣が人間を支配するような力を振るっている〉から、その呪縛から逃れるには、市場で貨幣を使う機会を少なくすればいい。これがつまり「脱商品化」である。それはつまり国家や資本家らによらない「ボトムアップ型」の社会を醸成することを意味する。そのヒントとして斎藤が紹介するのが「労働者協同組合のポテンシャル」である。これは共同経営者となった労働者が〈自分たちで能動的に、民主的な仕方で、生産に関する意思決定を目指す〉もの。じつは日本では2020年10月に「労働者協同組合法」なるものが施行されているという。

 斎藤の言は理想主義に聴こえるかもしれない。けれども、耳を傾ける価値は十分にある。