(2023/02/26)久しぶりにサイトをリニューアルしました。 (2023/03/01)村上春樹の新作タイトルが発表されましたね。
BOOKREVIEW

成田悠輔『22世紀の民主主義』

政治家はネコでいいってのは大賛成(笑)

 民主主義は、じつは公平ではない。少数派の意見が黙殺されるからだ。しかしひと握りの選民たちによる独裁よりは、公平とはいえる。チャーチルが喝破したように「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」というわけである。

 最悪だけれども他よりはマシだから民主主義は維持していかなければならない。であるならば、可能な限り公平さを担保できないか。試行錯誤が繰り返されてきたけれども、なかなかうまくいかない。既存の民主主義――つまりは既存の政治システムで得た権益を、政治家たちはけして手放そうとしないからだ。とりわけ世襲議員の多い日本ではなおさらである(*)。

 そこで成田が提案するのが〈選挙や政治、そして民主主義というゲームのルール自体をどう作り変えるか〉。結論から言えば、自身の専門領域であるデータアルゴリズムを駆使して、民主主義を作り替えようとする思考実験である。それを成田は「無意識データ民主主義」と呼ぶ。

 それは〈インターネットや監視カメラが捉える会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクション、心拍数や安眠度合い……選挙に限らない無数のデータ源から人々の自然で本音な意見や価値観、民意が染み出している。「あの政策はいい」「うわぁ嫌いだ……」といった声や表情などからなる民意データ〉をもとに、アルゴリズムによって政治の意思決定を行わせるというアイデアである。

 現代の社会や政治の問題は多岐にわたっていて、既存の選挙制度では、それに応えることは不可能だ。実際に投票時には、ひとりの候補者や政党に無理やり絞っていることが多い。これはあまりに「雑な」選び方である。一方で「無意識データ民主主義」であれば、政治家を介在させなくとも、民意を確実に政治に反映させることができる。

 結果として、副題にあるように「選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」というのが、成田の主張。要は政治家不要論である。もちろん、課題は多くあるし(民意データを誰がどのように抽出し、管理するのか?など)、実現可能性には遠いと言わざるを得ないけれども、妄想と退けるわけにもいかない。既存の民主主義が分断を引き起こし、格差を生み、貧困を生み出していることは事実だからだ。どこかでアップデートする必要はあるのだ。

(*)2021年衆院選は131人が世襲で、前回の128人から3人増で、新人は24人。全体に占める世襲候補の割合は、12.5%(前回比1.6ポイント増)

■総理や閣僚に世襲議員の占める割合は? 豊田真由子が分析「政界の世襲」のリアル(1)――神戸新聞
https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/omoshiro/202210/0015782450.shtml