斎藤幸平『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』
「公平で公正な社会のあり方とはどのようなものだろか?」
マルクス研究者の斎藤幸平によるフィールドワーク体験記。斎藤氏の著作を読むたびに思うことは、社会主義だのコミュニズムだのというのは、所詮は机上の空論でしかないではないか、という点である。たしかに行き過ぎた資本主義による弊害は、現代社会の様々なところに噴出している。ではマルクスは、具体的な解決策を示しているのかといえば、そうではない。つまり「理論」と「実践」とが伴っていない。
この点に関しては斎藤氏も常々感じていたようである。まえがきから斎藤氏の言葉を引く。
〈理論の重要性を信じ、理論と実践とは対立しないと考えるからこそ、私の方がもっと実践から学ばなければいけない。つまり、「学者は現場を知らない」という印象を持たれてしまうのであれば、私はもっと現場から学ぶ必要がある。〉
そう考え、二年間をかけて「日本全国の現場」を訪ね歩いた記録が本書である。タイトルにあるように、自らウーバーイーツの配達員をしてみたり、鹿の解体に挑んでみたりという「実体験」もあるが(これは多分にコロナ禍が影響している)、基本的には斎藤の掲げる「脱成長」「脱貨幣」「コミュニズム」の萌芽を、日本で実践している人々への取材となっている。
たとえば兵庫県豊岡市で林業を営む「ネクストグリーン但馬」。こちらは斎藤が『ゼロからの『資本論』』でも触れていた「労働者協同組合」の例だ。ここでは〈社長はいないので、どんな仕事をするか、作業や役割分担も自分たちで決める。金儲け主義でもない。労働者のため、地域のため、自然のための「よい仕事」を重視するのだ〉
そのほか、「男性メイク」「性教育」「昆虫食」や「代替肉」など、昨今話題の「最前線」の現場での斎藤の体験は、たしかに読み手である僕たちにも新たな視座や知見を与えてくれる。もちろんもっとヘビーな現場もある。野宿者の集まる釜ヶ崎、今なお現在進行形で闘い続ける水俣の人々、被差別部落だった北芝地区でのコミュニティ活動に尽力する若者たち、持続的な復興を目指し石巻で地域活性化に取り組む移住者――。
アプローチはさまざまだが、彼らを通じて本書から聞こえてくるのは「公平で公正な社会のあり方とはどのようなものだろか?」という問いかけである。答えを得るためには、どのような行動を起こせばよいのか。そのヒントが本書には、ある。