いしいひさいち『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』
心にジワリと染みてくる、とても素晴らしい作品。
いしいひさいちといえば、僕らの世代だとテレビアニメ化された『がんばれ!!タブチくん!!』『おじゃまんが山田くん』、あるいは朝日新聞掲載の『ののちゃん』などがなじみ深い。いずれもギャグあり、するどい風刺あり、そしてときに、抒情的な回もあったり。四コマ漫画の王道を極めた人気漫画家という印象がある。
そのいしいが、自費出版というかたちで世に出したのがこの『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』。同封されていた納品書によれば、この作品は〈構想から完成まで10年以上をかけた〉ものらしい。いしいほどの作家が自費出版で自作を発表するというのも驚きだが、完成までに10年以上も費やしたという事実にもさらに驚かされる。いしいの執念のようなものを感じる。
主人公は「吉川ロカ(きっかわ ろか)」という女子高生。彼女は成績はあまりよくないし、ちょっと天然な感じの女の子なのだけど、歌だけはものすごくうまい。ただし、彼女が歌うのは「ファド」というポルトガルの国民歌謡。ジャンルとしてはマイナーだ。いしいによる「あとがき」(https://www.ishii-shoten.com/honnmaru/rocaw09.html)によれば、担当編集者にファドのファンが二人もいたことが、いしいがファドに興味を持ったきっかけらしい。
この作品は、一人の女子高生がその才能を認められ、やがて歌手として成功していくという物語。それをすべて四コマ漫画で表現してしまうところが、まさにいしいの真髄、真骨頂といえる。基本はギャグマンガなので、クスリと笑いながらページを繰りつつも、気がつけばラストにホロリとさせられる。夢を追う女の子の成長物語、そして「柴島美乃(くにじま みの)」という、ヤクザの娘との友情物語として読むのもいい。
心にジワリと染みてくる、とても素晴らしい作品。