京極夏彦/多田克己/村上健司/黒史郎『ひどい民話を語る会』
久しぶりに本を読んでいて声を出して笑ってしまった
久しぶりに本を読んでいて声を出して笑ってしまった。京極夏彦、多田克己、村上健司といえば、言わずと知れた「妖怪馬鹿」三人衆だ。ずいぶん前、新潮社が「新潮OH!文庫」という文庫レーベルを創刊したときに、創刊ラインナップの一冊に入っていたのがこの三人による鼎談『妖怪馬鹿』。のちに角川文庫に収録されたものの、現在は絶版。誠にもったいない。
そんなファンの嘆きを察知してくれたのか、三人の新刊が出た。その名も『ひどい民話を語る会』。これがほんとうにひどい。そして面白い。なぜ面白いか。そして「ひどい」のか、というと、そもそも民話というのは、囲炉裏端や寝床でおじいちゃんおばあちゃんたちが子ども相手に語る物語だからである。子ども相手だから、必然的に子どもが喜ぶストーリー展開になる。京極のまえがきを引く。
〈聞き手を喜ばせるためなら、爺婆のサービス精神はどんどんエスカレートしていくんです。結果的に取り返しのつかないものが生まれたりもします。囲炉裏端にはコンプライアンスもポリティカル・コレクトネスもないんです〉
そんなわけで、〈ひどい民話が誕生する〉。ひどい民話を大別すると、どうやら艶笑譚の類が多いらしい。いわゆるエロ話である。昔も今もエロは強い。しかし今回は、それは外しましょう、となって、さて残るのはなにか。というと、ウンコとオナラの話。これが実に多いらしい。これもなんとなくわかる気がする。いつの時代も、子どもはウンコとオナラが大好きだからだ。
紹介されるのはほんとうに「ひどい」話ばかりなので、あえて詳細は書かない。ひとつだけ「へぇ」と思ったことを書いておく。「桃太郎」の話だ。桃太郎の話というのは、じつに様々なバリエーションがある。それは知っていたが、ではそもそもどうして、おじいさんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行くのか。
じつは桃太郎には、その前段があるバージョンがあるらしい。話の「枕」があるのだ。これもまたウンコが関わる話で、あきれてしまう。
〈「桃太郎以外」にもいろんな昔話の枕として使われる話なんですけど、お婆さんは針仕事をしている。お爺さんは便所で屋根を葺いている。屋根葺き、つまり屋根の修繕をしているんですね。で、お爺さんは屋根から落ちるんです。昔話で便所の屋根の修繕をしているお爺さんの九十九パーセントは落ちます。そして落ちた所は便所です。そのたっぷりの便壺に浸かったお爺さんの着物を洗うため、お婆さんは洗濯しに行くんですよ。一方のお爺さんは、穴を開けてしまった屋根の修繕のため、萱なり柴なりを取りに山へ行くんです。
以上の話がですね、「桃太郎」などの昔話で隠されてしまった部分なんです。つまりですね、婆さんは最初からウンコが付いた着物を洗濯している。爺さんもタプッと便所に入っているわけ。我々は、こういう隠されてきた部分に目を向けようということなんですね。〉(京極)